採用難、ビジネスのグローバル化、多様性豊かな組織作りなど、現在の企業が抱えるさまざまな課題を解決するためには、誰もが心の中に持っている偏見や根拠のない思い込み=「アンコンシャス・バイアス」への対策が不可欠といえます。ここでは「アンコンシャス・バイアス」がどのようにして生まれ、どんな悪影響を個人と組織に及ぼすのか、またどのようにして対策・改善していくべきかを考えてみたいと思います。


■「アンコンシャス・バイアス」とは
「アンコンシャス・バイアス(unconscious bias)」は、自分では気づかないまま心の中に持っている偏った見方・考え方、根拠のない思い込み、先入観・固定概念などを意味する言葉です。「今どきの若い者は」や「やはり女性には無理な仕事だったか」といった発言の裏には、無意識の偏見、つまり「アンコンシャス・バイアス」が存在すると考えていいと思います。
重要なのは、「アンコンシャス・バイアス」は特定の人だけが持つものではなく、誰もが無意識のうちに抱えているという点です。それは人間の脳が効率的に情報を処理するために発達させた認知の仕組みの一部であり、完全に取り除くことは困難です。しかし、自身のバイアスに気づき、意識的に対処することで、その影響を最小限に抑えることは可能です。


■ビジネスシーンでの「アンコンシャス・バイアス」の具体例
近年、政治家・著名人の失言をきっかけとして性差別や偏見が注目されるケースが増えています。だが「アンコンシャス・バイアス」は、もっと身近な場所にも蔓延しているといっていいでしょう。たとえば企業内では、以下のような形で「アンコンシャス・バイアス」が表出していると思われます。
●職場における事例
「お茶くみは女性の仕事」、「女性は結婚・出産を契機に退職する」、「男性は稼いで女性は家庭を守る」、「男性が育児休暇を取るなどもってのほか」など、男女の役割を固定して考えている方が無くなっているとは言えません。
「若手は雑用から」、「今どきの若者には根性がない」、「ゆとり世代はプライドが高い」、「昭和生まれの社員は考えが古くて融通が利かない」、「年配の社員はパソコンを使いこなせない」など、年齢や世代に対する思い込みも根強いですよね。また、「障がい者に難しい仕事は任せられない」、「大企業からの転職者なのでキッチリとした仕事ができるはず」、「LGBTQ+の人たちは何を考えているかわからない」、「彼は血液型がA型なので神経質だ」など、相手の属性から能力や特性を決めつけてしまうこともありえます。
「自分の意見や立場を守ろうとして相手の話を遮ったり無視したりする」、「“普通、こうするでしょう”と自身の価値観を押しつける」など、一方的な態度で周囲と接する者も存在していませんか。
●人事評価における事例
偏見に基づいて相手を判断・評価する人も見受けられますよね。「残業や休日出勤の多い者を“仕事に熱心”と評価する」、「アフター5の飲み会に付き合わない者は職場に不満があるのではと考える」、「気に入った部下が失敗しても問題視しない」などです。
●採用における事例
「体育会系なので根は真面目」、「女性は営業職や管理職に向かない」、「介護や育児と仕事の両立は難しい」、「前に勤めていたのが中小企業なのでたいして期待できない」など、相手の出自・現状などから能力や性格を断定し、採用・非採用が決められてしまうケースはないでしょうか。
●人材育成における事例
「若手には細かい指示が必要」、「ベテラン社員はもう成長の余地がない」、「営業職からは経営者は育たない」など、特定の属性や経歴に基づいて、個人の成長可能性や適性を決めつけてしまうこともあるでしょう。こうした偏見は、従業員の潜在能力を活かしきれない結果を招く可能性があります。


今回は、ここまでです。次回は対策について考えてみましょう。