東京商工リサーチ(東京都千代田区)は11月11日、2024年1月から10月の「人手不足」に関連した企業倒産件数を公表しました。
調査によると、人手不足を一因とする倒産は244件にのぼり、前年同期から90.6%増加し、ほぼ2倍に達しました。この増加ペースが続く場合、2024年の年間倒産件数は300件近くに達する可能性があるとのこと。なお、この調査は2024年1~10月の全国企業倒産(負債額1000万円以上)のうち、「求人難」「従業員退職」「人件費高騰」による倒産を抽出・分析したものです(後継者難による倒産は対象外)。

■「求人難(採用難)」が前年同期比110%増 人材確保の苦慮が続く
倒産理由の内訳を見ると、「求人難」が101件で前年同期比110.4%増と大幅に増加し、2013年以降の1~10月として初めて100件を超えました。次いで、人件費の上昇が重荷となった「人件費高騰」が82件(前年同期比70.8%増)、そして「従業員退職」が61件(同90.6%増)となっており、いずれも増加傾向が顕著です。この状況は、雇用の流動化が進む中で、多くの企業が人材確保に苦慮している現状を反映しています。

業種別では、サービス業ほかが最多の73件(同73.8%増)、続いて建設業が66件(同164.0%増)、運輸業が53件(同60.6%増)と、人材不足が特に深刻な産業での倒産が目立ちます。倒産形態別では「破産」が225件で全体の約9割(構成比92.2%)を占め、前年同期から85.9%増加。資本金1千万円未満の小規模企業が154件(前年同期比102.6%増、構成比63.1%)を占めるなど、小・零細企業の経営難が浮き彫りとなっています。

■人手不足倒産、人材が中小企業から大企業へ移動
人手不足倒産の背景には、賃上げ要求の高まりや人件費負担の増加があります。日本労働組合総連合会(連合)は来年の春闘で、定期昇給分を含む5%以上の賃上げを求める方針を固めていますが、物価高や人件費上昇が中小企業の経営を圧迫しており、さらに金利上昇局面も迎え、収益確保が一層難しくなっています。
また、9月9日に発表された労働経済白書では、人手不足が中小企業から大企業への労働移動を促進させていることも明らかになっています。こうした中、大企業と中小企業の格差が広がる恐れがあり、中小企業では実効性のある人材確保・育成策が急務だと同社では警鐘を鳴らしています。

■厚労省報告書も指摘 「人手不足」の構造的課題と対応策
人手不足による倒産が深刻化する中、厚生労働省の雇用政策研究会(座長:樋口美雄・慶應義塾大学名誉教授)が取りまとめた報告書が8月23日に公表されました。同報告書では、企業が抱える「人手不足」の課題を分析し、3つの類型ごとに対応策を提言しています。
1つ目の「労働需要超過型の人手不足」には、女性やシニア世代を含む多様な労働力の参加促進が重要とされています。具体策として、以下のような職場環境の整備が挙げられています。

・柔軟な働き方を実現する職場環境の整備
・ミドル・シニア層の就労支援の強化
・賃金面での処遇改善を通じた労働参加の促進

一方、「構造的な人手不足」に対しては、その原因を以下の2点にあると指摘しています。

・職場環境や労働条件が、労働者が抱える制約に対応せず、パフォーマンスが十分に発揮されないこと
・企業が求めるスキルを持つ人材の不足

報告書では、企業ニーズに合った人材の育成が重要であるとし、以下の環境整備が必要と提言してます。

・長時間労働を前提としない職場づくり
・両立支援策を活用しやすい環境の整備
・労働者のエンゲージメント向上と自律的な能力開発支援、スキルが正当に評価される仕組みの整備

2040年には総人口が現在の約9割に減少し、65歳以上が全体の約35%を占めることが予測されます。報告書では、このような人口動態の変化に備えるためにも、労使の適切なコミュニケーションを通じ、企業が労働者に選ばれる環境をつくる能力を高めることが重要だと述べています。

東京商工リサーチの発表の詳細は以下よりで確認できます。
https://www.tsr-net.co.jp/data/detail/1199053_1527.html